湯浅学『ボブ・ディラン ロックの精霊』


本を読む行為を日々続けていればとんでもないものに出会うことができる。
そう実感させてくれたのが、本書『ボブ・ディラン』だ。

ディランの歌は深読みを誘う。聴けば聴くほど憶測をよぶ。意味を問えば問うほど意味が逃げていく。謎多き現代の吟遊詩人。「風に吹かれて」「ライク・ア・ローリングストーン」など、数々の名曲で人びとを魅了しながらも、つねに人びとの理解を超えていく。その人生の足跡と作品の軌跡をたどりながら、幻惑するトリックスターの核心に迫る。

はじめに
第1章 ソング・トゥ・ウディ
1 ロバート・アレン・ジママン 2 ボブ・ディランになる 3 グリニッジ・ヴィレッジ 4 ウディに捧げる歌

第2章 ライク・ア・ローリング・ストーン
1 自分で歌をつくる 2 ハモンドグロスマン 3 時代は変る 4 変化の胎動 5 すべてを故郷へ

第3章 タングルド・アップ・イン・ブルー
1 くそでかい音でやろう 2 イメージ解体 3 決壊前夜 4 魂の彷徨

第4章 ライフ・イズ・ハード
1 終わりのない旅 2 新たなステージへ 3 忘れ去られし時

終章 トゥゲザー・スルー・ライフ
1 いつまでも同じだと思うなよ 2 果てしなきディラン道 あとがき

1941年に生まれたボブ・ディランは生名を、ロバート・アレン・ジマーマンと言う。彼の人気は60年代に訪れるけれど、すぐに姿をくらましてしまう。しかしそこで終わることはなかった。彼は今も歌い続けている。そのディランをテーマに湯浅学が本を書いた。3章まではよくあるバイオグラフィーだった。それが4章を迎え色気だつ。終章を読む段になり涙が溢れてくる。ロックの精霊足り得たディランを造形したのは、他ならぬ恋い焦がれた湯浅本人だった。オススメです。



かつてあんたは綺麗な服を身にまとってた
すべてがうまくいってたときのあんたは
  浮浪者に金を恵んでやってたっけ
そうだろう?
みんな言ってなかったか「気をつけな。落ちていくだけだぞ」って
でも、あんたは冗談だと思っていた
街角をうろついてるような奴らのことを
あんたはよく笑い者にしていたっけ
今、あんたは大きな声で話さない
今、あんたは自慢しようとしない
次の食事にありつくのに、街をうろつかねばならないことを

どんな気分だ?
どんな気分がする?
家がないってのは
誰にも知られないってことは
転がる石のように生きることは

一流の学校に通っていたよね、ミス・ロンリー
でもわかっただろ、あんたはただしぼりとられていただけなんだ
誰も道端で暮らしていくことなど教えてはくれなかった
あんたは今それに慣れていかねばならない
わけのわからない浮浪者になど けっして譲歩したりしない
そうあんたは言っていたね
  でも彼らの空虚な目を覗き込めば 今ならわかるだろう
彼らだってただアリバイを売ってるわけじゃないことを
そして今のあんたは 彼らに取り引きをもちかけている

どんな気分だ?
どんな気分がする?
ひとりぼっちで
向かう家もないってことは
誰にも知られないってことは
転がる石のように生きることは

手品師や道化者があんたのところにやってきて
あんたをおかしがらせようとしたとき
しかめっ面をする彼らに あんたは振り向きもしなかった
それがひどいことだって わからなかったんだな
自分がやる代わりに 他の人達にひどいことをさせていたわけさ
そうするべきじゃなかったね
あんたは肩にシャム猫をのせた外交官と
よくぴかぴかの車に乗っていた
すべてがはっきりした今 つらくないか
あいつに本当はそんな気なんてなかったんだと
ただ、あんたから取れるだけ取っていっただけなんだと

どんな気分だ?
どんな気分がする?
ひとりぼっちで
向かう家もないってことは
誰にも知られないってことは
転がる石のように生きることは

塔の上のお姫さまと綺麗に着飾った人達は
酒を飲んでいる うまくやったと思っている
素晴らしい贈り物などを 交換し合ったりしている
でもあんたはそのダイヤの指輪をはずし 質に入れたほうが良さそうだ
落ちぶれたナポレオンと 彼が言った言葉を
あんたはひどくおもしろがっていたよな
さぁ、彼のところへ行くんだ
呼んでるぜ 嫌とは言えないはずだ
なにもない時は なにも失わない
今のあんたは透明だ あんたには隠すような秘密などない

どんな気分だ?
どんな気分がする?
ひとりぼっちで
向かう家もないってことは
誰にも知られないってことは
転がる石のように生きることは
http://www.geocities.jp/bluseontheroad/likearollingstone.html