かぐや姫の物語/夢と狂気の王国


高畑勲における面白さは、既に一般的なものではなくなっているのではないか。つまり、面白さとは、突飛なこと、目新しいことに使われがちな言葉だ。新作において高畑は、丁寧なものの積み重ねこそが面白さに成り得ることを示そうとしたのではないだろうか。それとも、面白さなんて次元は彼にとっては不要だったのだろうか。
なぜこんな書き出しになったかといえば、『かぐや姫の物語』を恋い焦がれる気持ちで公開当日を迎えたのに、早速午前に見に行き爆睡をかましてしまったからだ。だから帝の出てくるシーンおよそ20分ぐらいは夢の中にいた。勘違いしてほしくないのだが、この映画はすごく面白い。高畑の意を汲んでいけばなおのこと。大層な製作期間をかけて彼が実現し得たのは、素晴らしく緻密なアニメーションだった。なんせ瑞々しい。だが、現代性があるかと問われれば、素直に頷くのは難しい。
本作を評する言葉として、100年後に100年前の映画として観ると貴重なものになっているはずだというものがあった。それはそうなのかもしれないが、今見た観衆としては、素直に楽しめるわけではない。

有名な『竹取物語』を丁寧にアニメーション化した作品。予告編で謳われていた「姫の犯した罪と罰」なんていうような大々的なシークエンスは特になく、寧ろ丁寧に丁寧に作りこんでいくと、これだけ世界を豊かに表現できるのだと知れたことが大きい。その丁寧さとは、高畑監督ならではの理想が大きく物をいわしている。なんといっても、冒頭から接触シーンが多い。おうなが、おもむろに乳を放り出し母乳を吸わせるシーン。本来なら高齢のため母乳を出せる人を探していたわけだけれど関係なく母乳が出る。かぐや姫がギャンギャン泣くシーンも印象的で、映画館には笑いが漏れていた。山小屋で赤ん坊が転がり、「タケノコ」と「姫」で言い争って翁も大声を上げる場面。あんな過剰な叫び声が、アニメであったろうか。姫が里に帰るために走るシーンには、『夢と狂気の国』を昨日みていたからこそ、涙があふれた。高畑さんの原点には、子供への理想的な啓蒙があって、そんなものの集大成のような作品だった。製作期間は14年、製作費は51・5億円。「 観る人の想像力を刺激し記憶を呼び起こして、線の向こうに" ほんもの " を感じてもらえる。」 

・姫の身体の成長の描き方がすごい/生理描写
・媼の母乳描写(なぜでるのか)
・やはり疾走すごい/宮粼駿と見紛う飛翔描写
・なぜ古典をやるのか
朝倉あきの声優がいい
久石譲の音楽が、『風立ちぬ』よりよっぽどいい
地井武男の声優の違和感/熱情
男鹿和雄田辺修に作画を任せ高畑は何をしたのか
・高畑による作曲(わらべうた)の分析
・「わらべうたを覚えていた」脚本家・坂口理子が担った役割

竹取物語 青空文庫
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 西村氏によれば、「風立ちぬ」を観た高畑監督は、「素直な作品だった。(今までの作品は)設定に無理があるものもあったけれど、今回は無理がなく、素直だった」と評価。主人公についても好意的だったという。
 鈴木氏は、「宮さんに(かぐや姫を)いつ観るの? と聞いたんですが、初号試写を観るためには五反田のイマジカに行かなきゃならなかったんです。そうしたら、“会社(ジブリ)でも試写をやるんでしょ?”と僕に聞いてきて、翌日にやると答えたら、“そこで観るよ”と言っていたんです。でも、試写の日が近づいてくるとソワソワしてきて(笑)、(ジブリでの試写の日は)用事ができたからと言って、その前に五反田まで行って観ていました。たいした用事じゃないんですよ(笑)」。
 「試写後に、感動して泣いている人が多いんですよ。宮さんはキョロキョロしながら出てきて、僕と宮さんと親しい、奥田さん(日本テレビ奥田誠治氏)が目を真っ赤にしているのを見つけると、“この映画で泣くのは素人だよ!”って言ってました。……今でも意味がわからなくて(笑)。玄人だとどうなるんだろう(笑)」と首をかしげる

夢と“魔法”の王国といえばディズニーだが、こちらはジブリNHKのドキュメンタリーばかり見ていればジブリも“夢と魔法”だが、この映画では“狂気”が浮かび上がってくる。“夢”と“狂気”が表裏一体で、自然にそれが描かれる。『桐島、部活やめるってよ』ばりにずっと出てこない高畑勲が宮さんが絵コンテを書き終わった日に屋上で待ちぶせしてるとか、泣かせるんじゃねえよ。宮粼駿の引退記者会見の前に町並みを見下ろしながら彼のアニメにかけた信念と実作を交互に見せたところを撮れただけでこのドキュメンタリーは成立したんだと思う。屋根の上を跳んだり走ったりするシーンの組み合わせに、わんわん泣いてしまった。アトリエで宮粼駿の斜め後ろに座っている女性が的確にコメントするもんだから、彼女が執筆した手記が読みたくなったよ。

宮崎駿「青春を全て高畑に捧げた」ジブリドキュメンタリー「夢と狂気の王国」(エキサイトレビュー)
[http://www.targma.jp/yanashita/?p=2164:title=[殺しの映画レビュー] 『夢と狂気の王国』 -幸せなどのために映画を作っているのではない。マスコミが言ってはならないジブリの「狂気」とは (柳下毅一郎) -2,439文字- – 柳下毅一郎の皆殺し映画通信]

SWITCH Vol.31 No.12 ◆ スタジオジブリという物語

SWITCH Vol.31 No.12 ◆ スタジオジブリという物語

めちゃくちゃ面白いです。

【インタビュー】
躍動するスケッチを享楽する / 高畑勲 聞き手=中条省平
日本一のアニメーション映画監督と過ごした八年間 / 西村義明 聞き手=高瀬司
無心で演じたかぐや姫 / 朝倉あき 聞き手=さやわか

【千年を経て甦る物語】
かぐや姫の罪 / 三橋健
死の女神がなぜ美しいか 火山の女神かぐや姫 / 保立道久
罪とはなにか 『竹取物語』と『かぐや姫の物語』 / 三浦佑之
前世の記憶 / 木村朗子

【少女×世界=???】
「戦闘美少女」としての「かぐや姫」 / 斎藤環
母でなく、救世主でなく、月は輝く / 佐藤俊樹
小和田雅子の物語 / 小谷野敦
神の成長 / 福嶋亮大

【美術とアニメのクロッシング・ポイント】
そうめんの光 / 山口晃
描き得ない「浄土」 / 橋本麻里

【対談】
アニメの歴史を変える映画 『かぐや姫の物語』を体験する / 奈良美智細馬宏通

【アニメ史を貫いて、その先へ】
線と面 『かぐや姫の物語』がもたらしたアニメーション史の新しい地平 / 細馬宏通
たけのこの「ふるさと」 / 藤津亮太
夢見ること、それだけを教える 高畑勲の「漫画映画の志」、その着地点 / 土居伸彰
にせものへの意識 / 中田健太郎
ファンタジーの行方 / 高瀬司
かぐや姫の物語』は何を肯定し、祝福したのか。 / 黒瀬陽平

【資料】
高畑勲フィルモグラフィー / 高瀬司

土井氏は肯定的、黒瀬氏は否定的なのだが、どちらの論考もユリイカのなかで最も読ませるものだった。中田健太郎のものは期待していたのだが、よくわからず煙に巻かれたような印象。藤津のものは、ネットで公開されていた感想は散々なものだったのにこの論考は極めてまっとうなものだった。佐藤氏のものは、社会学者でありながら個人的なアニメへの葛藤を含む筆者のエキサイトした感情の吐露で楽しめる。細馬によるものは、土井氏と同様、深くアニメの動きに通じた人の言であり、読み応えがあった。
西村義明のインタビューは、どの雑誌に載ったものも抜群に面白いので、「話の面白さ」鈴木敏夫を継承できているな、と。