ミシェル・ウエルベック『地図と領土』

フランスで50万部を超えた 鬼才ウエルベック最大の衝撃作
孤独な天才芸術家ジェドは一種獰猛な世捨て人の作家ウエルベックと出会い、ほのかな友愛を抱くが、作家は何者かに惨殺される。目眩くイメージが炸裂する衝撃作。

ウェルベックの最新作。翻訳は『素粒子』に続き野崎歓
美術家が主人公だということで読んでみた。ジェフ・クーンズとダミアン・ハーストの名前が一ページ目から踊っていたし。
クーンズと言えば、最近ではガガの3枚目のアルバム「ARTPOP」のアートワークを担当した彼です。

主人公はジェド。彼の20代から晩年までを描き、そこに作家・ウェルベックや彼女となりその後も関係が続くロシア人のミシュラン社員・オルガ、ギャラリスト・  、アートの媒介人・  との群像劇が挟み込まれる。
これまでのウェルベックの作品は、読みやすくはなかったという。その点で、普通の小説である『地図と領土』は新境地だ。
あらすじを追ってみよう。
若く名もないジェドは地図を使った写真の作品を作り出す。すると個展にミシュランの社員の女性が来ていて、二人は付き合う。フランスで4本の指に入る美人で、彼女の引き立てのおかげで作品は売れ社交界へのデビューも果たす。が、翌年彼女はロシアに転勤してしまう。時を同じくしてジェドは写真作品をやめる。10年で着々と名を成していったジェドは、新しく個展をすることになり、友人の作家・ウェルベックに文章を依頼する。文章のお礼として肖像画をプレゼントすることになった。新しい作風として著名人の肖像画を披露した個展には久しぶりに彼女が訪れ、大晦日に再会する。一方、ウェルベックは殺されていた。同じくして父親も死へと向かう。老人ホームにいたのだが、安楽死を選んだのだった。ウェルベックは、医師に殺されたことが判明する。殺しに使った道具が一致し、肖像画が保管されていたことから足がついたのだ。そして、ジェドは60を迎えた。

解説で興味深かったのは、p399の最後


闘争領域の拡大

闘争領域の拡大

ウェルベックの処女作。
読みながら鬱状態を追認できる作品。目端が利く以外は凡庸なエンジニアが次第に崩壊していく様を丁寧に描いている。
そしてきっと崩壊していったのではないのだ。最初から、壊れていた。それにやっと気づくことができだすのが後半だったということだけなのだろう。部下との抜き差しならない関係性は魅力的に描写され時に緊張感があるものの笑えるのだが、結局はバカにしていた部下と同じだけ主人公もモテないし、孤独であることを突きつけられる、しかもそれが鬱と合いまって兆候するという展開には度肝を抜かれた。
若い時には夢と希望に溢れているのが一般的で、つまり闘争領域は拡大し続けるように想像された。しかしそんなことはなく、齢を重ねるに従い拡大などしなくなる。部下の醜男はそれでも童貞であることが肝となって、拡大をやめなく続けている。隣の女子高生は自分に気があるかもしれないと信じることができ、クラブハウスでは若い女とホテルに行くことも吝かではないと振る舞えてしまう。そこにきて主人公はモテないくせに、拡大はストップしてしまっているのだ。この中途半端さに付き纏う恐怖は確かにあるのだ。


ある島の可能性

ある島の可能性