グラミー賞、ふたりの笑タイム、堤清二/辻井喬

・指揮者のクラウディオ・アバドが亡くなった。驚いた。チャイコフスキーテンペストとか、ヴェルディのレクイエムを聴いた。現在ベルリン・フィルを率いるサイモン・ラトルや、小澤征爾がコメントを出している。

グラミー賞を観ている。全編を通して観るのは初めてである。演者が堂々としていて、当然だがコメディアンはでてこない。お笑い無しで堂々と振る舞えるし、心の声を伝えることができる。そんな当たり前のことを分からせてくれ、貴重である。日本ではこのまま既成事実のように、お笑いの価値観が広く膾炙するだろう。そんな未来は甚だごめんなのに。

七尾旅人の文章「21世紀の音楽と その希望について」を読んだ。

萩本欽一の申し出によって歴史的な証言が文献として残った。小林信彦との対談集『ふたりの笑タイム』がそれだ。発売と同時に手にとって読んだ。三谷幸喜や「あまちゃん」にまで触れ、二人の衰えない笑いへの追求を感じさせてくれる。小林信彦は著述家だが、一貫して見ることの重要性を滲み出している。過日、ある美術家が「30代は表舞台には一切関わらなかった。だが、見ることだけはやめなかった」と語っていた。おそらくだが、グラミー賞の観客は、みること=きくことに全身全霊を賭け生きてきたはずだ。だから、あの場には並々ならぬ雰囲気が醸成されていた。日本に足りないのは、お笑い無しで醸成される雰囲気だ。個としての存立は何者にも脅かされてはならない、そういう原則が、共有されているとは言い難い。

ユリイカの特集「堤清二/辻井喬」を読んだ。

日本テレビのドラマが抗議を受け、スポンサーがすべて降りたそうだ。けれど放送は継続し、全9話、最後までやり切るという。こういう意思決定は最近の日本では珍しい。実際放送を見ていないので感想は言えないが、抗議されても意思を貫く姿勢は、考慮に値する。最後まで放送された暁に、どのような状態となっているか、楽しみだ。と、ここまで書いていたのだが、どうやら高須医院長がCM出稿を決定したらしい。こういう人が日本にいてくれて本当によかった。






①『ル・アーヴルの靴磨き』(アキ・カウリスマキ★★★★★★
よかった。たんたんと進行する話で、レビューには小津的である、というようなことも書かれていた作品だが、政治的な内容をうまく日常の生活にくるんだ手腕がさすがだった。違法な移民を逃がすのはもちろん犯罪なのだが、そんなことにはかまってられんという、それぞれの人間の倫理が、映画という表現として、正義の押し付けにならない。その塩梅にはほれぼれしてしまう。

②『キック・アス』(マシュー・ヴォーン)★★★★★★
マカロニ・ウェスタンの雰囲気に乗せてラスボスに挑む戦闘シーンのかっこよさったらない。ヒット・ガール役のクロエ・モレッツちゃんやたらかっこいい。アーロン・ジョンソン扮するキック・アスがヒット・ガールの危機一髪に現れるのも、最高(装備のダサさとあいまって)。残虐シーン多めなのには驚いたし、正義か悪かみたいな躊躇いも登場人物たちには少ないようだった。ヘタレのキック・アスという役だけでなく、うまいこと学校では性的に満たされてるのも紋切りを少し逸脱していてよかった。

③『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』(ジェフ・ワドロウ)★★☆☆☆☆
些か鼻白む出来。モレッツちゃんの幼さありきの一作目の良さだったのだなと。モレッツちゃんは大きくなって、キック・アスはムキムキ。アクションシーンにキレはなく、マザーロシアの面白さと、早死するジム・キャリーがおいおい、という楽しさがあった。

④『ブルーバレンタイン』(デレク・シアンフランス★★★★★☆
検索をすると、どうやら男と女でそれぞれに見方があったと揉めたらしい。その意見を読む前に、ひとまず自分の感想を書き付けておく。『パインズ』を先に観て、それから本作を観た。現在の冷えきった夫婦関係と、かつての結婚するまでの甘酸っぱいラブラブな日々が対比的に描かれる。最近うまく言っていない夫婦は、子供を母親の実家に預け、ラブホテルで愛を確かめようとする。母親は断るが、強引に夫が予約し、フューチャールームに泊まる。だが、二人はうまくいかない。うまくいくかに見えるも、投げやりな妻のセックスに夫は怒る。「レイプしてるわけじゃねー」。ラブホテルに向かう道中のスーパーで妻が出会った男は実は子供の父親であり、ラブホテルで夫は、自分の子供をつくろうかと冗談で言う。子供に対する異常な愛情の示し方は、実の父親ではないということもあったのだ。そこでうまいこと過去との対比が示される。高校で、妻にはレスリングをしている恋人(?)がいて、そいつが中に出した。そして妊娠した。夫は、そいつに工場で殴られるも(なんで殴ってんだよ)、その子の父親になろうと決意している。二人の出会いからして初々しい。男は引越し屋をしていて(依頼主への愛想が抜群で可愛い)、その斜め前の部屋が妻のおばあちゃんの家だったのだ。男は一目惚れしてしまい、強引にアタックする。バスで無理矢理隣に座り、降りた後、夜の路上で愛しあう二人が本当にいい。男は下手な歌をうたい、女は医学部への志望を語る。のちに妻の実家でも語るのだが、二人は出自が違いすぎた(妻の両親が仲が悪く、愛をちゃんと確かめ合える男に惹かれたんだろう)。ラストでは、男が病院に押しかけ、妻は「離婚しよう」とつきつける。子供に(最後に?)会って、男は歩き出す。流れる歌は、男が出会ったばかりの女に送った歌。あのCDに収録されていた曲だろう。
で、感想なんだが、観ているあいだ、かつての記憶がたくさん蘇ってきた。子供のころの家庭のこと、いまの恋愛のこと、両親のこと、自分の結婚のこと、あまりにも身分のちがう恋愛のこと。そして、委ねるばかりの結論には物足りなさを感じた。もう少しどちらかに振りきれた結末を用意してほしかった。男と女に関して言えば、どちらの気持ちも痛いほどわかる。まず男にすれば、自分はろくな仕事をせず、願った職に就いた女から、「あなたは歌とか才能あるんだからましな仕事に就きなよ」と言われても、うっせえ!と言いたくなるだろう。でも、痛いほど、その気持ちは胸に秘めているだろう。
女のことは愛しているし、倦怠期があっても、それを乗り越えてこそ愛だと思っているから、倦怠期も楽しめてしまう。子供は好きで仕方がないが、本当の父親ではないことは片隅で心配で、過剰になってしまう。だから、子供を作ろうと切り出してしまう。
里親や、嫡出子の問題など、「本当の親」ということへの比重が下がっていく傾向にある中で、考えざるをえないテーマを提出してくれている。
女のほうで言えば、念願の医者(看護婦?)の仕事に就けて、転勤の依頼に悩んでいる。最初は実力を見込んでの転勤だと思い、夫に言いたいように言えた(やりたいことをやりなよ!)が、実際は、男女関係を見込んでの転勤依頼だったみたいで、落ち込んでしまう。本当にいまの夫と結婚してよかったのか?スーパーで会った本当は太っておらず相変わらずハンサムな実の父と結婚しておけばよかったのか、堕胎しておけばよかったのか。身分の差を乗り越えて、とかいっても、結局分かり合えなかったじゃないか。仕事場に乗り込んできて人を殴るろくでなしだし・・・・。女の愛は最後は冷め切っているように見えた。しかし、男はいつまでも切れないのだろう。だが、最後は男から離れていった。どっちの気持ちが分かるかといえば、男だな。

⑤『ショーシャンクの空に』(フランク・ダラボン★★★★☆☆
初めてみた。ずっと面白く見ていたのに、最後でダレた感じ。で、監督名を確認したら「グリーン・マイル」と同じで納得。あっちはCGの使い方で好きではない作品だったのだけど、独特の落ち着かせ方が肌に合わないんだとおもう。ただ、展開は引き込まれるもので、特に、一度おじいさんの囚人の自殺を入れて終盤に繋げるのはうまいと思った。撮影はコーエン兄弟や「タイム」を手がけている人なんだね。「ごちそうさん」と同じ、改善の物語。自分のいる状況を少しでもよくしたいという感情を、「そうしなきゃ頭がどうにかなってしまう」状況とつなげたのがうまかった。

⑥『クラッシュ』(ポール・ハギス★★★★★☆



⑦『100,000年後の安全








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